「働かざる者食うべからず」の気持ち悪さについて


4歳の息子が最近「おてつだい」に目覚め、食器の片付けや掃除を積極的にやるようになってくれた。
俺「こうやって自分からやってくれるようになるのは本当にうれしい」
妻「あなたお手伝いを強制するの嫌いだもんね」
俺「『働かざる者食うべからず』って言葉が嫌いだからな」

それはなんでか。
長くなるので文にすることにしました。


1:『自分の働き』で『食えて』いる人はいない

自分の働きの対価として食が得られる。という文は本質的な部分で正しくない。
何故か
”ぼくの働き”だけで”ぼくの今日の食事”を得られるはずが無いからだ。
そこには過去から切々と積み上げられてきた資産やポジションや無形の資産などからの恩恵をうけている。
恩恵どころか、踏み込んで言えば「今日あなたが稼いだ額」の殆どは「あなた以外の人のおかげで」成り立ってると思った方がいい

その証拠はなにか、
極端な例を出せば、我々が一食にかける800円〜1,000円という金額を稼ぐのに一か月以上かかる国だってある。
日本人がそういった国に行って就職して一日「日本と同じように」働いても、我々が日本で得られるような食の満足を得る事は出来ない。
違うと思うなら試した方がいい。

「ぼくの今日の食事」は「ぼくの今日の仕事」程度で得られる程度の安さのものではない
食事/日々の糧はもっと尊いものだ

2:「働かざる者食うべからず」は冒涜的だ

「食べる権利」は「働く義務」と一体だ。
このように言う人もいるだろう。
権利に義務が伴う。のは本当ではあるけど。
それは『権利』を持っている人に対して「他人が」その人の権利を保証する『義務』があるってだけの話であって、
『自分の権利』を得るために『自分の義務』を果たせ、なんて等価交換的な考え方は本来おかしい。
いわんや「食う」という生存権に対してそれを果たす義務があるなんてのは生存権に対する冒涜だ。

生存は尊い。生きる自由を他人に侵されてはならない。これに反論する人はいないだろう。

生きることが尊いなら、生きるための糧も尊い筈であって。その人が糧を食ってよいかどうか、を他人が決められる、なんてのは甚だおこがましい。
大抵の宗教では糧は神に祈らないと手に入らないもんで、ただの人が他人の糧をどうこうする権利があるなんてのは糧に対して失礼だ。

人の日々の糧は先述のとおり、一個人よりももっと「おおきなもの」によって与えられている。
その事を忘れて、「お前は働いていないから食ってはいけない」と自分に他人の生存権を禁止する権利があるかのような事を言う人はどんな人なんだろう。

3:誰の為の「働かざる者食うべからず」か

お前の日々の糧を俺がどうこうできる。と言う権利が発生するのは主に主従関係だよ。それも奴隷の。
つまり「糧」が文字通り「主人」から「奴隷」に与えられている関係。
意地の悪い見方だけど「働かざるもの食うべからず」は主従関係の模倣なのかも。

他人に「食うべからず」と禁止できる人はつまりその他人の主人であると言うことになる。
事実として実際に主従関係があるかどうかにかかわらず、
「働かざる者食うべからず」を片方がいい、片方が「そうだよな」と受け入れる時
そこに力が生まれる。それは人の生殺与奪を人がどうこう出来る力。
それがまるで「在る」かのように現れる。
そういう魅力が「働かざる者食うべからず」という文にはある。

だから上述のとおり本質的に破たんした文なのにこれほど使われている。

4:破綻した文を使い続けてどうなってるのか

もっと言えば
働かざるもの食うべからず。という破綻した訓を維持するためにいろんな歪みが生じてると僕は観察する。

一言で言えば、この訓のために働いてる人の方が飯にありつける、という状況を維持する必要があって「働いてない人」を「食えない」状況に押し込む力が働くですね

働かざるもの食うべからず。なら働いても喰えなかったらおかしい。と言う発想も出る。
だからその不調和を補正するために 「価値を生み出していようが無かろうが、定時に出社して"働いてさえいれば"喰える」って構造が要望される。
それが所謂"窓際"正社員の利権なのかもね

逆に「"働いて"るけど食えない人」は『そいつらは"人間としてダメなせいで"正しく働いてないから食えない』て言説もでるよね。
これがフリーター批判の本質なのかもしれない。
フリーターが"人間としてダメではなかったら"、「正しく働いてるから食える」人たちの「正しさ」が危うくなるもんね。

このように、破綻が破綻を呼ぶ気持ち悪い文なのです。「働かざる者食うべからず」は。

5:なにをすればいいのか

ここまで、読んでいただいてこの気持ち悪さに共感していただいた人に、
じゃあどうすればいいのかを少しだけ考えたのでお伝えしたい。
まず、この言葉を使うのをやめる。次に、この言葉を使う人の近くに行かない。
むかつく言葉は発話空間から少しずつ退出させる。
それを大勢でやる。その効果はバカにならない。

ちょっとずつ、局所的にでも勝っていくしかない。

僕としては
「食わざる者、働くべからず」位の方がちょうどいいと思うのですね。こちらをむしろ流行らせたい。