「会長 島耕作」への失望

週刊モーニングで今週から「会長 島耕作」の連載がはじまった。
島耕作のような会長ではない30代の一読者として、第一回に対して期待していた事と、その失望、そしてこの物語がどのようにディズニーランド的かをお伝えしたい。

「社長 島耕作」の最終回において、島は巨額の赤字を出した責任を取って大手電機メーカーの社長を辞任し、株主総会を後にする。その足で彼女とホテルへしけこみ社長時代の苦労を癒す、と終わった。

では会長編はどう始まるのかと言うと、今度は自分が傾けた会社の会長のまま「日本経済発展の為に」財界活動に取り組むとの事。またしても癖のありそうなキャラクター達が登場し、島は「面白そうじゃないか」と意気込む。
島耕作はまだまだ偉くなるのか!」とワクワクを想起させるような構造になっている

ただ、率直に言えば、
この会長は自身の経営がどのようなものであって、どのような被害をおこしたかまるで省みていない。少なくとも省みている描写は無い。
物語内でそれほど描写されないが、島前社長の経営の結果として、多くのリストラと下請の整理と工場の閉鎖が行われ、その波紋は小さいものではなかったのだろう。

だからこそ、今までの課長時代からの努力とカタルシスが全く台無しになるような、島が全国の廃れた工場城下町を謝罪行脚するなどの贖罪の物語を期待していたが、蓋を開けてみれば今までの作品の構造を踏襲したまま「島耕作はどこまでも行く」と続いていく。

この巨額の赤字を出したのが「中小企業の社長 島耕作」だったらどうであったろうかと思うと、ゾッとする。

おそらくこの物語の想定読者であろう「これからの出世」を夢見ているサラリーマンたちにとって現実的なディストピアは突き付けられないから、「経営失敗して巨額の赤字出してもその後もわりと大手を振って活躍できるよ」と一種の救済を与えるしかない。というこの作品のやろうとしている事は理解できる。また事実としてこういった「会長」が実在しているのだから、その点からも、大変に「リアルな」漫画と言える。

ただ、それでも
自分よりはるかに年長の架空の人物に対して大変僭越ではあるが、会長島耕作は経営者としての責任や当事者意識が酷く薄い。「サラリーマン経営者」とはよく言ったもんだ。サラリーマン感覚で財界活動までやろうとしている。ただ、財界活動について私は疎いのでわからないが、実際の財界活動というのもこういった感覚で行われるものなのかもしれない。そう思えば、重ねて言うが、大変に「リアルな」漫画と言える。

ここでクルッと回転して考えると、大赤字を出して引責辞任しても、さらにその後「日本の為にかっこよく」活躍できるというのは大変にカンファタブルな世界ではある。そうやって見れば、島耕作は「こうであれかし」という大多数の日本人サラリーマンの祈りがこもったミッキーマウスのようなヒーローなのかもしれない。すなわち、島耕作という物語はサラリーマンにとってのディズニーランドだと思えば合点は行く。だから今さらミッキーが着ぐるみを脱ぐような事はできなかったのだろう。

もっとも、そのディズニーランドを実現するために払われた犠牲はあまり見向きされない。