「甘える学生」に甘えるな

JB Press 「終身雇用」という幻が生み出している悲劇
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5137

以下引用------------------
 「中小企業軽視」の背景には、親の存在も大きい。中小企業から内定をもらったものの親に反対されて断った、という事例を口にする大学の就職担当者は少なくない。そもそも親が賛成しないので、中小企業の採用試験そのものを受けない学生も多いという。

 中小企業の求人倍率だけが上昇するはずである。自分の将来を親に相談しなければ決められない学生もどうかと思うが、そこまで口出しする親にも首を傾げないわけにはいかない。

 親の「中小企業軽視」、裏を返せば大企業信仰が子に影響し、超氷河期に拍車をかけているというわけだ。
引用終わり------------------

こういう論調を僕らはよく目にする。
たいていこういう文書いている人のメッセージはおおむね以下の物言いまとめられる
●学生が大企業しか行きたくないと甘ったれているから、氷河期なのだ
●選ばなければ職はいくらでもある。

こういう言説
ジャーナリズムの世界だけでなく日常的によく聞く。僕だけではないはず。

僕の尊敬する人たちもこういう事を言う。
まずこういう文に触れたときはこう反応することにしている
「まあ、そうでしょうとも」

「だから何?」
って思う。

学生が中小企業に魅力を感じないのが悪い。
これは
商品が売れないのは客の頭が悪いから
って言っているのに等しい。


中小企業に対して挑発的な物言いになっているが、
僕も一応中小企業に数年勤めている(親会社からの出向という形ではあるけど)
ので、実は中小企業の立場にたって話していると一応前置きさせてください。


さて
そりゃあ、客がわかってくれなくて物が売れない事なんてよくある。わかるよ。
でもさ、
じゃあそれを売れるように知恵を出す。
ってのが「お仕事」なんじゃないの?


どんな知恵?
それを考える前に以下の文に触れる
●選ばなければ職はいくらでもある

これは
危険思想
の部類に入ると思っている。

職であればなんでもいいんだろうか。

もし、新卒者が「選ばない」世界なら
僕は真っ先に起業する、
そして学生を最低賃金で雇い昼も夜も休日も残業代も払わず働かせる。
彼らを消費したら、また「選ばない」学生を雇用する。
こうすることで
僕は屈指の格安料金で品物を世に送り出せる。
そしてあっという間に
他の企業も僕と同じように学生を使役して格安料金で競合してくる。
そうなったら僕は社員からトイレ休憩と昼休みを取り上げる。
これを繰り返して
最終的にはすべての会社がアウシュヴィッツみたいな環境になる。

●職を選んではいけない
という言説にある種の「正しさ」が宿っている事は
僕もいち職業人として認める。
だからと言ってこの文を経営者の側が悪用しはじめると
世界は持続可能性を書いたブラック企業だらけになってしまう。

この文を口に出すのは危険なのだ。
人類の生きるための善性に対する挑戦だ。それを皆自覚した方がいい。

だから、前段の議論に戻れば
●学生に選んでもらえる
ための知恵を絞らなければいけない。

それは例えば
・初任給を上げる
・残業の上限を明文化する
という条件面の提示かもしれない
または
・なぜ自分の会社で働く事が素晴らしいのか
・大企業ではないが、それでも絶対に潰れない理由
がもっと伝わる「営業」をしなくてはいけない。
ブランド力のある商品だけで世の中が出来ているわけじゃない
ブランドがなくてもいい企業はいい企業として立派にあるんだから
それを伝える努力の方法はいくらでもあるはずだ。


なぜそれを怠るんだろう

怠るには理由がある。理由があるなら怠っていいからだ。
「学生は甘えん坊である」
という物言いがそれだ。

で、
僕はこの部分をあんまり議論したくはない。
冒頭のとおり
「まあそうかもね」
と思うからだ。

けど、客が馬鹿だから売れない、から倒産する。のなら
倒産したけど、これは客が馬鹿だったせいで、我々は悪くありません。
なんて物言いが通用するはずがない。

「学生は甘えん坊である」
という事実に甘えるな。
こういう話を僕はしたい。

または、条件面の話をすれば
新卒の初任給を上げられる余裕なんかない。
って直感的には皆思うだろう。
けど、「上げないと会社がつぶれる」のだとしたらどうだろう?
事実、
ゲームのルールがそう変わってきているのだから、
そのルールに沿って仕事をするしかない。

学生が甘えん坊なら、
それにあわせてやればいいじゃないか。

会社は学校じゃない、のだとしたら
学生が甘えなくなるまで待つ理由はない、
環境にあわせて仕事をすればいいだけだ。

本稿の議論はここまでだけど、
ちょっと付け加える。

なにやら切羽詰ってきている時代ではある。
切羽詰っている理由は、ありとあらゆる議論が出尽くしたからだ
出尽くしてなお状況が好転しない時代なのだ。
こういうときは、「弱いもの」が攻撃を受ける。
ここで言う弱いものは、いわゆる相対的弱者の事じゃない。
反論できない、させてもらえない
そういう人たちに非難が集まる。
ここでは
「甘える学生」
がそれだ。

誰もが正しいと思ってしまう議論、
そして非難される側自身も正しいと思ってしまう議論、

こういう議論は検証が必要であって、
そういう悟性を丹念に地道に重ねていくことでしか
未来はやってこないんじゃないかな。